当たり前になってきた今こそ 社内AIの利用ルールを考える

2022年にChatGPT、 2023年にはGeminiが発表され、どんどんアップデートされている現代。便利で多岐にわたるAIに魅了されて、最近では学生から年配の方まで多くの方が当たり前にAIを使用するようになってきました。


「となると、自分が知らないだけで、うちのスタッフも業務で使っていたりするのでないか?」そんな風に考える経営者も少なくないのではないでしょうか。

AIは確かに業務改善のうえでも強力なツールですが、その使用ルールを設けずに放っておくと、成果のムラや情報漏洩に対する不安が募ります。そこで、AIを社内で安全に活用できるツールとして取り組むポイントを皆さまにお伝えします。

目次

「個人の利用」から「オープンな仕組み」へ

まずは、AIをオープンな仕組みとして取り入れる旨を社内で共有しましょう。
AIは強力な業務改善ツールであるため、社内で利用許可がなければこっそり使用する社員も現れてくるかと思います。

しかし、個々が独自のルールで使用する場合、本人のスキルや気分に依存し、同じ仕事でも品質が差がでるのが現実です。何より、個人情報や売上記録などの機密事項を利用している場合、情報漏洩のリスクに繋がります。

ですので、まずは仕様の範囲と規約を決めて社内で利用できる仕組みにすることを目指しましょう。

社内利用の方向性が固まったら、次は安全に利用するための「仕組み化」をどのように進めていくか考えてみましょう。
まず、いきなり重要なタスクに利用するのは管理が膨大化してリスクが大きくなります。小さなタスク処理から運用し始めて、ムラをなくすところからスタートしましょう。

有用なAI活用シーン

そうはいっても、どこで利用するのがいいのだろうか、という方のために、よく活用されるシーンをご紹介します

  1. ミーティングの要約作成:記録した録音や長文から必要な情報を即時整理する。例えば、「会議の5つの要点+ToDo」だけを抜く、という事ができるでしょう。
  2. 社内文書の“下書き”作成:稟議の趣旨や社内告知の初稿づくり。AIのどんな活用シーンでも同じですが、最終表現は人が整える前提とすることをおススメします。
  3. 定型表のドラフト:求人票や問い合わせ等の返信の精度向上。一般的な構造や見本のサイトを確認させて、現在自社で扱っている内容の課題や改善点を具体的に提案させることができます。

特に、テンプレートの作成や長文整理は精度の要求がそこまで高くないので、最小リスクで時短効果が期待されます。

まずは社内ルールの決定

タスク処理の方向性が決まったら、安全に使用するための最低限の社内ルールを決めましょう。ポイントは3つです。

  • 対象を絞る:「このシーン」「この時に」「このデータに」利用してよい。という条件を決めます。
  • 入口を一本化:どのメンバーも「同じテンプレ」「同じ指示」で始められる状態を用意する。
  • 見える化:使ったら**□チェックで記録**(何を・なぜ・どのテンプレ)。長文報告は逆に負担が増えるため不要です。

禁止事項としては、最初のうちは「取引先名が入った書類」「社外秘の原価や見積条件」などの利用は控えましょう。

指示書の制作のコツ

よし!それでは実際にこのタスクにAIを使ってみよう!と決定したら、次はAIに対する指示書を用意します。

AIへの指示書は、プロンプトという名前で扱われます。プロンプトは、大雑把に書いてしまうと回答の精度が低下するので、目的の作業を細かく分けて指示しましょう。A4のレポート1枚(約800字)程度で完結させると精度が上がりやすいでしょう。プロンプトの見本を用意しましたので、これを元にタスクにあったプロンプトを用意してみてください。

プロンプト見本

※ ()でくくられた箇所はプロンプトの使用に関する説明文なので、使用する際は削除して使用してください。

[業務名] ______________________________

目的:(最初に大まかな目的を説明します。例として会議の報告書作成とします。)下記の指示に従って会議の報告書を作成してください。

出力構成(どのように回答してほしいか指定します)

– 構成順:結論 → 根拠 → ToDo(各3点まで)

– 粒度:必要に応じて見出しを付ける。箇条書きは「※」を用い、1行40字以内

作業点の確認(利用者が用意する情報源を指定します)

– 入力物:[資料名/URL/メモ]

– 参考:[社内規程/過去の成功例リンク]

– 想定読者:[誰に渡す文書か]

絶対条件/禁止/許可(やらなければいけないこと、やってはいけないことを指定します。)

– 絶対条件:出典の明記/日付の明記

– 禁止:断定口調での未確認主張/引用の無断転載

– 許可:語尾の調整/言い換え/見出しの簡素化

説明書を作ってみよう。ポイントは3つ:品質・安全・共有

プロンプトが決まったら、次はどうやって使用するのか。いわば説明書の準備です。

ここで意識して欲しいことは「完璧にこだわらない」ことです。説明書というとどうしても隅々まで気になってしまいがちですが、それだと大変な時間と労力がかかってしまうため、頓挫してしまう人が多くなるでしょう。

ですので、初めは品質/安全/共有にだけ集中します。ひとまず運用できる状態を用意して、問題点はあとから調整する方がスムーズに進みます。それでは、具体的に品質/安全/共有の要点を確認してみましょう。

品質=「プロンプトが同じ指示で同じ水準になるか」(再現テスト1本)

  • プロンプト(指示分)で同じ入力を3回実行
  • 出力の構成・回答の内容のズレ・抜けに大差がないかをチェック
  • ズレが大きければプロンプト内の指示を1行だけ調整

安全=「利用者が入れてはいけない情報を使用していないか」(安全チェック表)

  • 入力前チェック:固有名詞・未公開数値・個人情報が入っていないか
  • 変換ルール:文脈的に固有名詞を使用したい時は伏字にする。
    例 社名→[A社]、氏名→[Xさん]、金額→[XXX万円]

共有=「プロンプトの保存場所とバックアップ」

  • 業務ごとに1枚の標準プロンプトを用意
  • 場所を固定:社内ドライブ「/AI-Templates/業務別/」
  • 変更が必要な場合はバックアップをとって別途保存する。

”負担を減らすためのAI”を負担にしない

いかがだったでしょうか。利便性の高いAIを“個人のこっそり活用”から“オープンな仕組み”へ移すと、ムラが減り、事故の発生防止に繋がります。

しかし、便利なAIの導入を難しく考えてしまうと、それ自体が負担になりかねません。まずは業務を1つに絞り、簡単なプロンプト1枚からスタートしてみましょう。完璧を目指すより、続けられる範囲で続けることが勝ち筋となるでしょう。

記事の監修

木村 俊樹(きむら としき)
弁護士
たまプラーザ Biz Civic 法律事務所

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