はじめての資金繰り地図 ―2025年度版―

かつてないスピードで進む物価高、高止まりする金利、2025年の経済状況を取り巻くニュースも重苦しい見出しが目に留まります。そんな中、事業を伸ばすために奔走されている皆さま…本当にお疲れさまです。不安が多い中でも、事業を拡大しようと考えると”融資”はいつか向き合う重要なテーマですよね。今回は、初めて融資を受ける方に向け、その道筋を整理してみました。
いまの自分に合う資金の調達先はどこか?どういった準備をし、返済が滞りそうな時はどのようにしたらよいのか?順を追って見ていきましょう。神奈川県内で相談できる専門家もご紹介します!
資金繰りへの道―いま選ぶならこの4つの融資
冒頭でも触れたとおり、物価高や金利の先行きが読みにくい今でも、事業の拡大には資金の調達はつきもの。初めて融資を考える方は「このタイミングで投資したい。でも返済計画が見えずに不安。」なんて思うのではないでしょうか。
融資を受ける際、無理なくスピード感を持って後悔しないようにするには、まずは自分が 「どこからいくらぐらい借りたら良いのか」ということを定めることから始めます。ここでは、2025年の段階で代表的な4つの融資制度を紹介します。早速それぞれのルートを確認していきましょう。
- 日本政策金融公庫
創業や小規模事業の運転資金・設備資金を目的とした政府系金融機関の制度です。経営者の間で、よく“公庫“と略して呼ばれています。無担保でも借りやすく、返済期間が長め、面談で事業内容を聞いてくれるのが特徴で、はじめての融資で計画をカタチにしたい人に向いている制度になります。 - 保証付き制度融資(県・市の制度+信用保証協会)
県や市が提供する、地域の中小企業向け低金利融資を目的とした制度です。金利・保証料の優遇があり、金融機関と保証協会の二重チェックで、安心感があるのが特徴です。決算や納税が整っている場合に向いています。 - プロパー(銀行の単独判断)
プロパー融資とは、民間の金融機関が提供する事業の運転資金・設備資金を目的とした制度です。「保証料がかからない」「条件の相談がしやすい」「決まるのが早い」などのメリットがあります。一方で審査が比較的厳しいため、黒字が続き、取引金融機関との関係がある人に向いています。ただ、保証料がかからない分、金利が少々アップする場合もありますので留意しましょう。 - 補助金(外周で併走)
補助金とは国や自治体が提供するもので、特定の目的と条件を定めて、そのための費用を一部支援するのが目的となる制度です。借入ではなく、後払い支援(採択が必要)が特徴で、当面の資金は ① ② ③ で確保しつつ、投資の負担を軽減させたい人に向いています。
いかがでしょうか。イメージとしては、創業〜小規模の初動は、公庫か保証付き制度融資が現実的。実績や関係性に自信があるならプロパー、投資の負担を減らすための補填に検討するなら補助金。という感じです。
よくある勘違い — 融資で躓く原因はココ?
融資の種類が見えてきたところで、今度は融資に関するよくある誤解を3つ紹介します。誤解をしたまま後で後悔しないように、確認していきましょう。
勘違い1:「創業期は決算書がない → 借りられない」
決算書がなくても借りられる融資もあります。政府系の日本政策金融公庫(公庫)には “創業期向け” の融資が用意され、「新たに事業を始める方」「申告2期未満」でも対象となります。
また、民間ルートでも信用保証協会の「創業関連保証」というものがあり、創業前〜創業5年未満でも最大3,500万円、100%保証の枠が利用可能です。この時、審査で特に重視される部分は事業計画。要は「決算書がない → 不可」ではなく、「整合性のとれた計画とエビデンスを見せる → 可」ということにもなり得ます。
勘違い2:「借り換えをすると評価が下がる」
借り換え(借換とも表記)とは、すでにある借入を新たな金融機関から借りた資金で一括返済し、返済先を切り替えることです。
「そんなことしたら、そりゃ評価も下がるでしょ?」と感じますが、一概にそうとも言えません。
政府では、借り換えや条件変更の活用を想定して制度を整えています。例えば、2022年のコロナの際には「コロナ借換保証」として、100%保証の融資を100%保証で借換可能と明示し、資金繰りの改善を促しています。
資金繰りのトラブルは、本人の問題だけではなく、社会的な影響など想定外の事態でも発生します。ですので、状況次第では借り換えも検討のうえ利用し、計画性をもって整備すべきということです。問題は、借り換え自体ではなく、計画性のない多重債務であり、金融庁の通知でも、条件変更や借り換えを申込時点で機械的に否定しないよう要請しており、実情に応じ柔軟に対応することを求めています。
勘違い3:「創業時の融資は公庫の一択⁉」
これは、第一候補になりやすいことは事実ですが、一択というわけではありません。公庫の創業向けの支援は強力ですが、県・市の制度融資(保証協会付)でも創業支援枠が整備され、固定金利・保証料補助・長期などコスト面の強みがあります。
同じく信用保証協会の創業関連保証は、創業前〜5年未満を対象とし、最大3,500万円・100%保証の枠で民間金融機関経由の調達が可能。地域のメインバンクを巻き込みやすいのが実務上の利点です。
経営状況や担保の度合いは、企業によって様々です。自社の現状や今後の事業計画をしっかりと見直して検討することをおススメします。
着金の準備、この順で動けばこわくない
どの融資にしようかが決まれば、次の目標は “着金の準備” です。申し込み・審査・契約まで滞りなく進められる状態を目指すために、着金までの流れをベースに準備の手順を5ステップでご紹介します。
- 必要書類の準備
- 専門家への事前相談
- 事業計画を1枚で要約
- 申込・審査
- 契約・入金
それでは、それぞれのステップの詳細を確認していきましょう。
ステップ1:まずは必要書類を準備する
各機関に相談する前に、事業の状況がわかる書類を集めておくとスムーズに進みます。実際の申請においては、各種融資によって必要な書類は異なりますが、相談の段階ではひとまず下記のリストの書類があれば十分です。無理に用意しなくても、手元にご用意できるものだけで問題ありません。
- 事業計画の要約(1枚:目的/使い道/返済原資/スケジュール)
- 具体的な見積書(設備・IT・採用など使い道ごとに費用を明記)
- 直近の通帳コピー(メイン事業用口座の入出金:6~12ヵ月分)
- 本人確認書類(運転免許証等またはマイナンバー)
- 居所・事業所の証明(賃貸借契約書等/自宅兼事務所でも可)
- 税関連の控え(個人:確定申告書控/法人:決算書・申告書控)※創業前は不要
- 既存借入の一覧(残高・金利・返済額・返済日)
- 商材・サービスの説明資料(カタログ、URL、試作品写真 等)
- 代表者の略歴(強み・資格・実績を簡潔に)
ステップ2:専門家へ事前相談。詳細な計画を練っていく
書類が揃ったら、融資の申込み前に、借入金額や返済計画などの資金計画に現実性があるかどうかをチェックする必要があります。ますは、融資元の窓口へ連絡し相談してみましょう。一度の相談で決定しようと思わなくても大丈夫です。公庫と制度融資を並行で相談するなど、要件・スピード・コストの感触を掴んでから決定しましょう。
また、「資金計画以前に事業計画が正しいのかわからない。初めての事だし、融資元が決めきれない。」という方もいると思います。そのような場合は、税理士や中小企業診断士に相談しながら決定していくのもおススメです。記事の後半で神奈川県内の各種窓口もご紹介しますので、参考にしてみてください。
ステップ3:詳細な事業計画を作る
相談が進んで融資元が定まってきたら、詳細な事業計画書を制作しましょう。融資によって必要事項は異なりますが、下記のような事項を求められる場合が多々あります。わかりやすく簡潔にまとめましょう。
1枚要約の型(例)
- 事業の一言要約(誰に/何を/なぜ今)
- 売上の作り方(顧客獲得の手段と成果/単価×数量の根拠)
- コストと利益の見通し(固定費と変動費の内訳/損益分岐)
- 資金の使い道と回収計画(運転設備・回収期間)
- 経営者・チームの強み(実績・ネットワーク・資格)
- リスクと対策(需要/人/仕入/法規 それらの対策案)
- 要求条件(必要金額・希望期間/金利イメージ・担保/保証の可否)
事業計画書の指定がない場合、公庫(日本政策金融公庫)のサイトにて、創業者向けの各種書式が整備されていますので、参考にしてください。
各種書式ダウンロード|国民生活事業|日本政策金融公庫
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
ステップ4:“本命”を絞って、いざ申込み
詳細な事業計画書が完成したら、本命とされる融資元への申込みとなります。最近では、オンラインで申込みを受け付けている機関もあるので、確認してみましょう。
申し込んだ後は、書類を元に「面談 → 審査 → 契約の流れ」が一般的です。審査は期間を分けて二段階の場合もあるので、審査の期間や段階も確認しておきましょう。
ステップ5:晴れて契約、着金へ
審査を問題なく通過した場合、晴れて契約となり着金となります。この先は返済リスクに備える、追加で補助金の融資を検討する…など、事業計画も必要に応じて見直していきましょう。
また、審査が通らない場合も考えられます。審査前に想定できる場合も多いのですが、審査が可決されたつもりでいると思わぬ資金不足に陥ることもあります。それまでの運営資金は十分に保ち、審査が否決された際の代替案として、別の融資元も検討しておきましょう。
不測の事態で返済がきついとき。借り換え・リスケ・据置とは…。
融資を受けると、今度は返済が始まります。しかしながら社会情勢の急激な変化や自然災害など、自身の力ではどうにもならない不測の事態で、返済が計画通りに進まなくなってしまう時もあるものです。
その際の対策として、借り換え・リスケ(条件変更)・据置の3つの措置があります。融資を受ける前の心構えとして知っておくと安心です。
- 借り換え(かりかえ)
今の借入をより良い条件の別の借入に置き換えることです。返済利率や期間を見直して、毎月の返済負担を軽くすることが主な目的です。複数の借入を一本化する場合もこの措置です。
- リスケ(リスケジュール、条件変更)
今の借入の返済条件を見直すことです。借り換えと同じく毎月の約定額の減額や返済期間の延長などが目的です。資金繰り改善の選択肢として公的機関でも明確に位置付けられています。
- 据置(すえおき)
元金の返済を一定期間猶予し、利息のみ支払う期間を設けることです。制度ごとに上限が決まっているので融資元に確認が必要です。
どの措置が適切かどうかの判断は、現在の借入の制度を確認したうえで、その時の経営状況と、借入金および利率を明確にして、損益を計算する必要があります。個人での計算や判断が難しい場合は、税理士など信頼できる専門家に相談することをおススメします。
神奈川県内—資金繰りの“相談窓口”
最後に、神奈川県内での各種融資と、融資に強い専門家の相談窓口を紹介します。具体的な計画やお悩み・相談があれば、ぜひ連絡してみてください。
日本政策金融公庫(JFC:創業・小規模に強い)
- 日本政策金融公庫 横浜中央支店
新高島駅 徒歩2分/みなとみらい駅 徒歩5分/横浜駅 徒歩10分|店舗案内 - 日本政策金融公庫 川崎支店(川崎フロンティアビル)
川崎駅 最寄り|店舗案内 - 日本政策金融公庫 厚木支店
本厚木駅 徒歩5分|店舗案内 - 日本政策金融公庫 小田原支店(小田原箱根商工会議所会館)
小田原/箱根板橋 最寄り|店舗案内
保証付き制度融資(県・市の制度+信用保証協会)
- 神奈川県「中小企業制度融資」
オンライン窓口あり|詳細情報はこちら - 横浜市|中小企業融資
取扱金融機関(原則、市役所での手続不要)|横浜市 - 川崎市|経営支援部 金融課(相談窓口)|
川崎駅 最寄り(産業振興会館)|川崎市 - 相模原市|中小企業融資制度
相模原駅 最寄り(相模原市役所)|相模原市 - 小田原市|中小企業融資制度
小田原市役所または小田原箱根商工会議所|小田原市 - 神奈川県信用保証協会(本店+支店)
関内(本店) 各地域に支店あり|窓口一覧 /
プロパー
- 横浜銀行 ビジネスローンプラザ(Web/オンライン面談/電話)
オンラインまたは電話での相談可能|相談ページ - 横浜信用金庫 創業資金融資相談
最寄支店で相談|創業相談 - 川崎信用金庫 事業性融資・経営相談
最寄支店へ|融資ページ
その他の専門家(無料/公的の伴走支援)

資金の話は、勇気がいる分だけ動いた人から条件が良くなることがあります。このコラムを読み終えた今が、いちばん迷いが少ないタイミングです。一人で抱え込まず、早めに窓口や専門家に相談することで、次の一歩が見えてきます。計画を自信に変えて、事業を拡大されることを願っています。へ移すと、ムラが減り、事故の発生防止に繋がります。
記事の監修

鈴木 崇史(すずき たかふみ)
合同会社 SDGs経営サポート
中小企業診断士
元銀行員で融資や補助金サポートのエキスパート。


